――そういうやり取りができるのは信頼関係あってこそ、ですよね。
小野 そうですね。彼らにしかない信頼関係を表現しなければと思いました。戻って来られるのか分からないぐらい過去に縛られて、完全にそこに取り込まれていたので。…無事に戻ってきてくれてよかったです。
坂本 今回はいつもと違った弱気なシエルになっちゃうわけですけど。そういうシエルが出てくるのもすごく珍しいですが、でもそうなったからこそ、フィニアンとちゃんと会話できた気もするんです(笑)。今までは主人と使用人だから、二人にたくさんのやりとりがあったわけでなくて。命令して終わりとか、フィニアンが“わーっ”となって、それを見て呆れる…みたいな、そんな距離感だったので。二人でちゃんと話すのって、実は今回が初めてだったんじゃないかな。それぐらいすごく新鮮な場面がありましたね。
梶 そうですよね。今までは何をするにもセバスチャンを挟んで…とかだったから、二人きりで話すことはなかったですね。
――シエルとフィニアンのシーン、アフレコはいかがでしたか?
梶 明るく朗らかないつもの彼じゃない姿を演じるということが初めてのことだったので、その声の雰囲気にせよ、テンション感にせよ、さじ加減はどのくらいかな?っていうところから探っていきました。原作を読んで改めて役作りというか、本当に別人かと思うくらい、過去と現在の彼をどう演じていったらいいのか悩みました。でもシエル坊ちゃんと、二人でしっかりと会話できたことが、フィニアンはもちろん、彼を演じる身としてもとてもうれしかったです。フィニアンが救われた出会いであり…彼の中ではそれが“全て”なんだなっていうのを物語を読んで感じていたので。フィニアンにしかできない接し方、言葉のかけ方というものを届けられたらいいなという思いで演じました。あとは先ほど小野さんもおっしゃっていましたけど、シエルが幼児退行っぽくなってしまったことで、セバスチャンからすれば逃げているように見えたり、塞ぎ込んでいると感じてしまった部分があったはずで。でも、だからこそそんなシエルを救うことができるのはフィニアンだけ。シエルへの恩返しというニュアンスもありつつ、“支えてあげたい”という気持ちを持っているフィニアンが、あの時のシエルにとってはすごく必要な存在だったというか。今まではきっと、「シエルがいてくれてよかった」ってフィニアンが思うだけでしたけど、シエルにとっても「フィニアンがいてよかったね」って客観的に思える状況だったんじゃないかなと思いますね。
小野 初めて役に立ったよね…!(笑)
梶 はははっ。本当にそうだと思います(笑)。今まで戦闘とかではチラホラって感じでしたけど。
坂本 力持ちだからね、影では色々荷物を持ったりしてくれていたと思うけど(笑)。
梶 そういう意味で役立ってはいたと思うんですけど、今回はフィニアンにとっても、改めてシエルの存在の大きさを再認識する機会になったと思います。それに、シエルが戻った後、使用人たちに対して、要約すると「ありがとう、またこれからもよろしく」と言うシーンを見て、改めて絆が生まれたなと思いましたし、初めて本音で言葉をかけるシエルを見たら、成長を感じられてすごくうれしかったですね。
――今回、シリーズ初参加となったジークリンデ・サリヴァン役の釘宮理恵さんと執事・ヴォルフラム役の小林親弘さんのお芝居についてもお聞かせください。
小野 ぴったりですね。当て書きなの?って思うぐらい! くぎみー(釘宮)も親弘くんもサリヴァンとヴォルフラムという役柄の性質を持っている役者さんたちなので、本当によくキャスティングしたなと思いました。実は僕がもともと原作を読んでいたとき、まずサリヴァンは釘宮理恵だと思いながら読んでいた節があって(笑)。演じることにならないかな〜なんて思っていたんです。そしたら本当にキャスティングされて、やっぱりそうだ!って。ものすごくファン目線ですけど、「くぎみー来た!うれしい!」っていう思いがありましたね。くぎみーは、日本の萌えを一身に背負う“萌え日本代表”なので(笑)。サリヴァンの辛い運命を背負いながらも純真に生きている姿を真っ直ぐに表現できるのはくぎみーの声だなと思いました。逆にヴォルフラムは誰がやるんだろう?って、想像がつかなかったんですけど。親弘くんに決まったってなった時に「ぐっ…なぜ俺はそれを思いつかなかったんだ!ぴったりすぎる…!」って思いましたね(笑)。若い時から外画の現場とかでも見ている役者さんだったので、ここに来て親弘くんが『黒執事』に参加してくれることにはとても意味があるし、こんなにぴったりな役柄で参加してくれることが役者の先輩としてもうれしかったです。
――坂本さんはいかがですか。
坂本 私と小野さんが2人で長くやっていた海外ドラマの現場に、声優初挑戦の親弘くんが来たことをすごく覚えていて。マイクの前に立って演じるのが初めてで四苦八苦していた姿を見ているので、「あ〜立派になったな」ってお姉さん目線になっちゃうんですけど(笑)。ヴォルフラムって屈強で強面な男性ですが、内面がすごく繊細で。単に低くてカッコいい声だったらいいっていうことではないんですよね。彼が持つナイーブさみたいなものを表現するには親弘くんのお芝居がすごくぴったりだなと思いました。理恵ちゃんとは同い年なんですけど、昔からとにかく尊敬している方で。心の底から感情の揺れみたいなものを声に乗せていて、それが作為的ではないところが本当に素晴らしいなといつも思うんです。今回も、「外の世界が見たい」というサリヴァンの訴えをアフレコ現場で聴いていたとき、胸を掴まれて切ない気持ちになって。可愛さや幼さを求められる役柄だけど、そういうところは超越しているんですよ。彼女が演じると、何歳だとか、どういうキャラクターかは関係なく、とにかくこの人が今生きていて、真っ直ぐな気持ちを伝えてくれているんだとリアルに感じられるので、すごく尊敬しています。今回もそういう場面がいっぱいありました。