宮沢氷魚と大鶴佐助。今最も勢いに乗る若手俳優たちの二人芝居『ボクの穴、彼の穴』が、9月17日(木)に東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて開幕。初日公演を前に公開ゲネプロと取材会が行われた。
『ボクの穴、彼の穴』は松尾スズキが初めて翻訳を手掛けて話題となった絵本を基に、ノゾエ征爾が翻案、脚本、演出を手掛け、2016年、旧PARCO劇場の「クライマックス・ステージ」を飾った傑作舞台の再演。戦場の塹壕(ざんごう)に取り残され、見えない敵への恐怖と疑心暗鬼にさいなまれる兵士の物語。殺すか殺されるか。じっと塹壕に身を潜め、互いを「モンスター」だと信じ、「殺す」ことだけにコミットしている。「戦争のしおり」が自分の正しさと信義の全て。「戦争のしおり」という大きな力に操られ、相手がどんどん大きなモンスターになって疑心暗鬼と見えない敵への妄想が膨らんでいく……。最後に兵士の取った選択とは……。
前作に引き続き、演出はノゾエ征爾。新たな「ボク」と「僕」を演じるのは、新生PARCO劇場のオープニング・シリーズ第一弾『ピサロ』にて太陽の息子・インカ王アタウワルパを堂々と神々しく演じた宮沢氷魚と同作品で将軍ピサロの小姓マルティンを繊細に表現した大鶴佐助。公開ゲネプロ終了後に舞台上で行われた取材会には、宮沢氷魚と大鶴佐助、演出のノゾエ征爾が登壇。3人が公演に向けた思いを語った。
[宮沢氷魚 コメント]
今年の春に『ピサロ』という作品に出演していたのですが、残念ながら10公演で中止となってしまい、それ以来の作品ということですごく楽しみにしていました。このようなご時勢なので、本当に幕が開くのか不安もありましたが、今日こうして無事に初日を迎えられることをうれしく思っています。最近は一人になることが簡単になってしまって、一人でいても生活はできるし、人とコミュニケーションを取ることや他人の人生に関わるということが疎かになる可能性が高い状況だと思うんです。個と個で、相手の存在というか、相手が生きていることを確かめて安心する。当たり前だからこそ忘れてしまうことに、面と向かったこの作品に出演できて光栄です。舞台は5作目ですが、こんなに肉体的にも精神的にも追い込まれたのは初めてです。二人芝居でセリフの量も想像以上でしたが、稽古はしんどいけど楽しく、稽古や演劇が好きなんだなと再確認しました。僕、佐助、そしてノゾエさんで作品をつくり、人前で披露する。その当たり前のことがやっと始動できるようになり、うれしいです。でもまだ、観客の皆さんも感染予防に気を付けて来てくださると思いますし、僕たちも体調管理に努めて万全の状態で毎回新しく楽しい公演をお送りしたいと思います。
[大鶴佐助 コメント]
今、やっと長い稽古の末にゲネプロが終わって、どれだけ稽古場で稽古をしていても、見てくれる人がいるって全然違うなって感慨深いものがあります。今日の夜が初日ですので、実際にはここから(スタート)ですが、「ゲネプロ終わったな!」とホッとしています。戦争を体験していない僕たちが演じて、見に来てくださるお客さんも戦争を体験していない方が多いと思います。目に見えないモンスターは、そんな僕たちがこの作品の中で共有できるものの一つだと思っていて。共有できるからこそ、目には見えないものを僕たちが実体を持って演じていないとお客さんは納得してくれないんだろうなとノゾエさんと氷魚くんとディスカッションして稽古してきました。普段は舞台を見てお芝居を見に行ったという感覚になるかもしれませんが、この作品はかなり現実と地続きになっていると思うので、お客さんに「そんなもん?」と思われたら僕たちの負けだなと思いますね。舞台は毎回同じものがないというか、毎公演二人で役を生きて、その日のお客さんとその日の僕たちでつくり上げる作品だと思うので、その一回限りの作品を毎回大事にしたいと思います。
[ノゾエ征爾コメント]
ずっと公演が中止となっており、この公演が今年初めての本番ということでとても感慨深いです。劇場は、こうやって人が集まることで息遣いが生まれてくるのだなと改めて感じました。いったい何が起きていて、何を信じればいいのか。そして人と関われないという生活にみんなが追い込まれていく時に、今作の穴の中に一人でいる状況がリンクして、4年前の初演時は普遍的なテーマで皆さんに共感していただけるかなと思っていたのですが、多くの方がどこかで似たような感覚を持ち、登場人物を見られるんじゃないかなと思いました。このような状況下で、一つの公演を立ち上げていく時に、演劇はこれだけ多くの大人たちがいろいろなことに気を使いながら、本気になって模索して作り上げているのだと改めて肌で感じた稽古でしたし、キャストのお二人がその大人たちの期待を一身に背負って、舞台上で生きる姿を毎回稽古の時から楽しみにしていました。(規制緩和を受けて)これからだんだんと客席が埋まっていくことで、彼らがどう息づいていくのか千秋楽まで見届けたいと思います。
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