「連続ドラマW 鵜頭川村事件」(WOWOW)で、行方不明の妻を捜しに娘と鵜頭川村を訪れた医師・岩森を演じる松田龍平。役柄や撮影時のエピソード11年ぶりにタッグを組んだ入江悠監督について話を聞いた。
――このドラマのお話を聞いた時のお気持ちを教えてください。
入江(悠)さんとは10年前にドラマW「同期」という作品でお会いして。また同じWOWOWで入江さんとご一緒できることに面白い縁を感じましたし、ありがたいなと思いましたね。
――当時の入江監督の印象は?
入江さんには『SR サイタマノラッパー』のすごくゆるい作品のイメージが、僕にはあって。でも「同期」はそれとは全く違う刑事ドラマだったんです。撮影するまでは「『SR サイタマノラッパー』みたいなノリの刑事なのかな?」となんとなく思っていて、それはそれで楽しみにしていたんですけど(笑)、台本の通りにきっちり演出される方だなと、意外だった記憶がありますね。その時に、僕が台本の中の違和感をスルーしてしまった覚えがあって。だからまた入江さんとご一緒できる機会があったら、もっとコミュニケーションを重ねてセッションしながら仕事をしたいなと思っていました。
――その印象は約10年たって変化しましたか?
いや、僕の中での入江さんはあまり変わっていないですね。
――松田さんと入江監督がタッグを組むと発表された際に、松田さんは入江監督に関して、「癖の強さは相変わらずでした」とコメントされていましたが、どんなところにそう感じましたか?
癖がないところが癖、ですね(笑)。演出方法など癖というか、こだわりがある監督のほうが多いと思いますが、入江さんはパッと見すごく強い癖やこだわりがありそうに見えるものの、実際の現場では淡々とされていました。
――監督とは作品を作る上で、どのようなセッションをしましたか?
とりあえず自分の考えをぶつけてみました。入江監督がそれを許してくれる方だったので、甘えさせてもらって、疑問に思ったことは監督に伝えていました。細かいセリフや相手との芝居の距離感とか、台本に描かれている以外の部分でも自分なりに芝居を成立させたいという思いがあったので。台本を読んでいる時と、実際に動いてみるのとではやっぱり違って、妙な違和感が生まれるので、そういったところを相談していましたね。
――作品の印象を教えてください。
僕は、演じる岩森の目線で台本を読んだので、「なんで奥さんを捜しに来たのか?」ということと、「どういう結末が待ってるのか?」を大事にして読んでいました。物語が進むにつれて驚きましたね。この話の面白いところだと思います。
――岩森はどんな人物だと考えて演じられましたか?
すごく普通でどこにでもいそうな感じではありますが、家庭はうまくいってないし、仕事もうまくいっていない。誰しも生活が不調になる時期ってあるじゃないですか、岩森もそうなのかなって思いました。意識したことは、「村の中でどういうポジションか」というところですかね。村は、大きく対立する矢萩の家系と降谷の家系とに分かれていて、岩森は東京から来ているよそ者の人。だから村のしきたりも理解できないし、争いや面倒なことに関わりたくないし、それよりも奥さんを早く見つけて帰りたい。でも、村が自然災害によって孤立してしまって帰ることができなくなり、たまたま医師という職業柄、岩森はどうしても村の人たちと関わりを持たざる得なくなってしまう。奥さんを捜すためにも、医師として自分の役割を全うしなきゃいけなくなってしまう。だけど、「自分は村で唯一の医師なんだ」というヒーロー意識が強くなるのは嫌だなと思って。たまたま村にいたから自分が診るしかないのだと、追い詰められている状況下でさらに拍車がかかるほうがいいと思って演じました。
――岩森は父親でもあります。松田さんの父親役は、からすると、新鮮に感じます。
娘と一緒に奥さんを捜しに来ているんですが、劇中では娘との会話がほとんどないんですよ。最初はその違和感を僕自身の中でなかなか消化しきれなくて、この親子はどういう関係性なのだろうかと思いました。でも、そこから岩森が抱えている大きな問題が見えてきたんです。問題が明るみに出ると、違和感がなくなって腑に落ちました。その後、娘とどう対峙(たいじ)するべきなのか、入江さんとも話し合いました。
――冬の長野県で撮影されたとのことですが、印象に残っていることは?
ローメンという焼きそばラーメンみたいなソウルフードがあって。撮影前から気になっていましたね。いろんなところにあったんですけど、結局食べられなくて。長野に行った際はぜひ食べてみてください、僕の代わりに(笑)。あとは豪雨で土砂崩れが起きて村が孤立してしまうという設定なので、美術さんが一生懸命、豪雨の後のように荒れ地にする作業をしていて。初めて見た時は「うわ、きれいだな~」と思うような場所だったんですけど、数時間後に見ると嵐が去った後のようにめちゃめちゃになっていて心が痛かったです(苦笑)。撮影のためとはいえ、罪悪感がありましたね。蓮佛(美沙子)さんは現地の方に「きれいにしますので!」って声を掛けていました。
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