8月28日(日)よりスタートする「連続ドラマW 鵜頭川村事件」で主人公・岩森(松田龍平)の失踪した妻・岩森仁美と、岩森と共に仁美の行方を捜す仁美の双子の妹・ 矢萩有美の2役を演じる蓮佛美沙子。1人2役かつダブルヒロインという難役に挑戦した彼女に、役との向き合い方や撮影時のエピソードなどを聞いた。
――この作品のお話を聞いた時の気持ちを教えてください。
あまり挑戦したことがないパニック・スリラーもの、松田龍平さんや入江(悠)監督と初めてお仕事をご一緒させていただくこと、そして1人2役という、楽しみでワクワクする要素がたくさんあるなと思ってうれしかったですね。
――1人2役、しかもダブルヒロインです。
2役だからとすごく気負ったり「どうしよう…」と悩んだりはしませんでした。いつも新しい役に入る時には、その人の人生を掘り下げてから現場に入るんですけど、それが2倍になっただけというか。仁美と有美をそれぞれ掘り下げたら、おのずと演じ分けになるんじゃないかなと思ったので、違った人に見えていてほしいですね。ただただ、1人1人と向き合って楽しんだっていう感じです。
――役を考え、深める作業が2倍になったことでの大変さはありましたか?
2倍という面での大変さもありましたし、仁美も有美も壮絶な人生を歩んでいて。有美は足にハンディキャップのある子で村から出たことがなく、村人から軽蔑されることが当たり前の世界で育ったから、私のイメージではモノクロの世界でずっと生きているのかなと思いました。仁美も本来純粋で明るい良い子だと思うんですけど、12年前の事件をきっかけに人生が180度変わってしまって。壮絶な人生を2人分歩むという意味では大変でした。基本的にどの作品でも自分と役を切り離して切り替えられるタイプではあったんですが、今回は長い期間ロケ(長野)に行きっぱなしで、ずっと緊迫していたので、そういう意味での精神的負担は他の作品に比べてすごく多かったような気がします。
――どんな瞬間に精神的負担を感じましたか?
撮影が進めば進むほど精神的疲労感が蓄積していく感じでした。台本を全部読んでいて結末は知っていますけど、村に閉じ込められた設定で何回も同じ芝居をやっていると、なんだか刷り込みのような、「撮影がこのまま終わらないんじゃないかな」、「ここから出られないんじゃないかな」と思えてきて。また、普段は気分転換を図るんですけど、今回はあえてそれを放置して作品とリンクさせた部分もありました。全然境遇もスケールも違いますけど、村から出たいという思いと、ホテルから出て自分の家に帰りたいという思いは、同じ感覚なんじゃないかなって。精神がすり減っていくという意味では一緒なのかなと思って、あえて味わうことで役作りもできてちょうどいいくらいに思っていたところはあったのかもしれません。
――台本を読んでみてどのような印象を受けましたか?
本当に怒涛(どとう)の展開で、しかもたくさんのストーリーラインがある作品だなという印象でした。仁美はどこに行ったのか、嵐が来て閉じ込められてこの先生きて出られるのか、その中で殺人事件も起きて、誰が殺したのか。そこに矢萩の家系と降谷の家系で二分化した村人同士の対立もあってどう決着がつくのかなど、いろいろな要素が同時に進行していて読み物としても単純に面白かったです。
――実際に撮影に入ってみて、「読み物」が「映像」に変わっていく過程はいかがでしたか?
実際に撮影に入って、より不穏さを感じました。それはキャストの皆さんが個性豊かで、「絶対みんな何かある」「何か企んでる」と思わせられる説得力があったからですかね。現場でお芝居を拝見しているだけでもすごく楽しかったですし、より厚みを感じました。それに加えて本当に美術が素晴らしいなと個人的に思っていて。嵐が過ぎ去った後の話なのでとにかくいろんな所を汚したり荒らしたりしなきゃいけなくて、その絶妙さがより不穏な恐怖感をあおっていましたね。それはやっぱり現場で台本を超えたところにあるもので、「ここまでするんだな」と現場で驚いたところではあります。監督やチーフカメラマンさんが画作りにもすごくこだわりを持っていることは木の枝1本を調整するところを見ていても実感としてあったので、それが結果として独特の気持ち悪さとか、不穏な「この村には何かある」というおどろおどろしさみたいなところにつながっていくんだなと。
――松田さんは蓮佛さんが住人の方に「必ずきれいにしますから!」と気遣っていたのが印象的だったとおっしゃっていました。
あはは! 「(ロケ地の)長野県の皆さんありがとうございます!」という気持ちでしたね。いろいろなところを汚させていただいたので、やっぱり悪いことをしている気分になるじゃないですか、仕事とはいえ。おそらくその罪悪感から出た言葉ですかね。