公開中の映画「インコンプリート・チェアーズ」で、才気あふれる椅子職人・九条新介を演じた一ノ瀬竜にインタビュー。「ザ・ゲスイドウズ」の宇賀那健一監督がメガホンをとったスラッシャー映画で、彼は作品づくりへの新たな視点を手に入れたようだ。
――本作への出演の経緯を教えてください。
プロデューサーの鈴木祐介さんから、「一ノ瀬主演で、〝日本版アメリカン・サイコ”を撮ろうよ」と言っていただいたのが始まりでした。鈴木さんとはこれまでもお仕事をご一緒させていただいた中で、「一ノ瀬はサイコパスで行きたい」と言われていて(笑)。鈴木さんのもとでいくつかサイコパスな役どころを演じさせていただいてからの今作という形だったので、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。
――そういった役どころは、演じるにあたって理解が難しい部分も多いのでは?
ベースは、どんな役を演じるときも変わらなくて。共感はしないけど、理解はできるという感じなんです。はたからみると異常性を持った人も、僕の中では普通の人とアウトプットの仕方が違うだけ、という認識なんです。これまでどの役に対しても、彼はきっと普段こんなことを考えているんだろうな、という視点に立つことができたので、今回も楽しく演じられたなと思っています。
――本作で演じられた九条に対してはどう理解されましたか?
彼は暴行を受けている人を撮影した動画がネットで拡散されているのを見て、その動画の舞台となった椅子業界に対して怒りを感じている人物。それはおかしいだろうと、彼なりの正義感の中で人を殺しているんですよね。今の時代、そういう自分の中にある正義感が正しいことを世間に証明したい人って多いと思うんです。SNSなんかは特にそういう投稿にあふれていますよね。いわゆるアンチコメントを書き込む人も、そうだと思っています。自分が思うことを他の人に分からせたいから書き込む…その行為は理解できないけど、内面にある思いを理解することはできるんですよ。

――アウトプットという意味では、九条はとても衝動性が強く、怒りが沸いた瞬間に身体が動いているような人物でしたね。
そのアウトプットの速さは、ある種うらやましく思いました。すごく人間的で、本能に従って生きている感じがして。思い立ったら即行動タイプって、すごく優秀な人にもなりえるのに勿体ないな…とも思いましたね。
――九条にも正義はあったと思いますか?
九条に関しては自分勝手に演じていいと監督から言っていただきました。たしかに本人は「これが正義」と思って行動しているけど、明らかに世間とズレているし、彼の論理には一貫性がまるでない。そういう自分の都合のいいように生きているさまを演じてほしいということ、衝動的に動いているうちに後に引けなくなっていく姿を見せてほしいと監督から言われて、なるほどなと思いましたね。最初はその一貫性のなさに「どうやって演じよう?」と悩んでいたので、事前にその悩みをお伝えさせていただいたことで、撮影には九条としてまっすぐに臨むことができました。
――そして共演者の皆さんも、九条と同じくらいキャラが濃いですね。
そうなんです! キャラが濃すぎる皆さんと戦わなきゃいけないのが大変でしたね。一人一人が“個性の塊”みたいな役者さんばかりだった中で、九条は結構“無個性”を意識していたというか。無意識に出ちゃうものだけを出そうと思って、なるべく削いでいく作り方をしていたので、個性的な人たちと対峙してのお芝居はすごく大変でした。ただ、監督とは事前にかなりじっくり話させていただいたので、現場ではかなり自由度高く演じさせていただけた感覚があります。

――直近で、「命のギャンブル-魂を賭けろ帝 獄之介-」では監督にも挑戦された一ノ瀬さんですが、監督をやることで、役者とは違う視点を得たりすることもあったのでしょうか?
俳優として、すごく勉強になりました。俳優部として入ると、そのシーンでご一緒する役者さんとしかご一緒できないのですが、監督として全シーンをモニターで見ながら作品全体を見られたことで、各シーンのあり方について考えることもできました。また、現場で目にした画と、実際にカメラで映っているものはちょっと違うんですよね。現場ではこれぐらいの圧があるけど、カメラを通すとちょっと落ちるのを見て、「これぐらいやっていいんだ」ということにも気づけました。監督の楽しさに目覚めると同時に、今後のお芝居にも生かせることがたくさんあったなと思います。少しでも、撮り方や編集について学んだことで、現場にいて助かる!と思ってもらえる俳優になれたらいいなと思っています。
――監督をやってみて感じた、制作側の楽しさとは?
俳優のお芝居を最初から最後まで見ていられるのも楽しいし、編集も面白かったです。ただ、編集をするときに、撮った素材全てを使うことはできないので、役者さんに対して申し訳ない気持ちにはなりましたね…。ここ切らなきゃいけないのか…!とか、すごく悩みました(笑)。役者と監督、両方とも違った面白さがあるけど、繋がってる部分もあって。
カメラの画角や撮り方を技術的に学んだことで、芝居をするときもそれを意識することができる気がしますし、まだまだ勉強することがたくさんあるなぁとワクワクしています。
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