独自の存在感で近年注目の二人が初共演。『ミッドナイトスワン』の内田英治監督によるオリジナル脚本の配信作品『雨に叫べば』で、1980年代後半を舞台に映画撮影の内幕を描く。男尊女卑やパワハラがまかり通る時代の撮影現場で、年齢差を超えて“友情”を育む！

――主演の松本は、エロが売りの映画に抜擢（ばってき）された新人監督の役。モトーラは、差別に屈せず奮闘する撮影助手を演じている。

松本　私の演じた映画監督は、内田さんの実体験が多く反映されている、まさに内田さん自身だと思っていて。監督が何度もカットをかけて「もう一度お願いします」と言う時、胃がキリキリするそうで。実際に、みんなの視線を受けた時は、内田さんはこんな感覚なんだと体験できて、うれしかったです。

モトーラ　みんなの視線が集まってきて、みんなの気持ちを背負っているけど、でも自分の作品にするために強くいないといけない。監督はそことも闘っているんだなと感じました。私は撮影助手の役で、フィルムで撮っている設定だったので、技術的なことを東映撮影所でずっとカメラマンをされている方から直接教えていただいて。私はフィルムカメラが好きなので古いカメラにロマンを感じるけど、昔は大変だったんだなと思いました。１ロールで10分くらいしか撮れない。テークが回っている間の重みが、今の感覚とは違うと感じました。

――描かれる映画の撮影現場は、二人にとって職場＝ホームグラウンドでもある。

松本　デフォルメされていましたけど、私たちの仕事場で行われていることが客観的に見られて面白かったです。普段は自分の仕事に集中しだすと、スタッフさんの細やかなやりとりまで見ることができませんから。劇中では怒号が飛んだりしてコンプラぎりぎりなんですけど、でもいとおしいというか。一つのものをみんなで作れるこの仕事に就くことができて、よかったなと改めて思いました。

モトーラ　「用意スタート」「カット」が（劇中なのか実際なのか）どっちなのか分からなくなることが何回かありました（笑）。

――お互いの印象は？

松本　もともと世理奈ちゃんのファンで。ドラマ「ブラック校則」で制服姿の世理奈が歩いている姿を初めて見て、息をのむような存在感と唯一無二感、誰もマネできないオーラがあった。実際にお会いしても、純粋無垢（むく）の塊というか、ただそこにいるだけで美しいし、こっちが勝手に受け取るものがある。世理奈は存在そのものが芸術作品というか（笑）。年齢は違いますけど、この映画で唯一心を通わせていく二人だし、内田さんが年齢を気にせずに友達として成立すると思ってくれた感性が、私はすごくうれしい。キャスティングは実年齢で判断されることが多いから。常識にとらわれない内田さんだからこそ、この友情関係がつくれたと思います。

モトーラ　そうですね。同じ現場で闘っている同士だから年齢も関係ないし、どこの世界でもそうだと思うのですが、一緒に作っているから感じ合えるものでつながっている。私、最初はお会いするのを緊張していたんです。撮影では二人のシーンがもっといっぱいあって、まりかさんが私に話し掛けてくれた言葉もうれしくて、そこでつながれたからこそドーナツのシーンでは、二人で座ってスタジオを見下ろしながら、ウソがないような気がしました。撮影所の匂いも感じられて大好きなシーンです。

松本　ドーナツのシーンを立たせるためには、その前のくだりは必要ないという判断だと思うんですけど、バッサリとカットされていて、結構ショックでしたね（笑）。でも、映画としては、あそこに集約させた。

モトーラ　私から吹っ掛けてぶつかり合うシーンがあって。同じ女性だし、助手として頑張ってきて自分の中でたまっている気持ちを監督にぶつけちゃう。

松本　二人が心を通わせていくシーン。特典映像か何かで復活させてほしいくらい。でも、世理奈ちゃんがいてくれたおかげで私は、混沌（こんとん）とした撮影現場で劇中と同じように心が洗われた。私にとって世理奈ちゃんはそういう存在で、本当に大好きです。

COLUMN「自身にとって映画とはどんな存在？」

松本　映画は駆け込み寺だなと。私は、今のこのモヤモヤを自分ではどうしていいか分からない時に映画館へ行くんですよね。そうすると自分の中心に立ち返れて、深い気付きを得られる。どんな立場の人でも登場人物の誰かには共感できるから、生きるモチベーションを与えてくれたり救ってくれたりする。生きる上で一見必要じゃないように見えてもすごく必要なもの。

ーーコロナ禍で映画は、不要不急ではないと言われるが。

松本　むしろ必要ですよね。全ての生産性を上げてくれる。忙しくて見に行けないじゃなくてたった２時間を費やすだけで、他の効率がものすごく上がる。人ってモチベーションだと思うんです。そのモチベーションを底上げしてくれるのが映画。自分の感性や人間力も高めてくれる。そういう意味での人生の駆け込み寺です。